「どんなに賢明な人でも」とエルスチールは私に言った、「青春のある時期に、想い出しても不愉快で抹消したくなるようなことばを口にしたり、そんな人生を送ったりしなかった者など、ひとりもありません。しかしそれはひたすら後悔すべきものでもないんです。まずはありとあらゆる滑稽な人、忌まわしい人になったあとでなくては、なんとか曲がりなりにも最終的に賢人になどなれるわけがありません。(……中略……)人間は、他人から叡智を受けとるのではなく、だれひとり代わりにやってもくれず逃れることもできない道程の果てに自分自身で叡智を発見しなければならないのです。……」『失われた時を求めて 4』(プルースト/吉川一義訳/岩波文庫)より。(第二篇「花咲く乙女たちのかげに」、第二部「土地の名—土地」)