不景気とは言え、月に一度くらいは贅沢をするか。冷酒一合を水筒に詰めて歌舞伎座へ。三越の地下で、筍と海老団子の惣菜と「弁松」の幕の内弁当を買って行く。昼の部、「女鳴神」「傀儡師」「傾城反魂香」。
「女鳴神」は「鳴神」の男と女を逆さまにした演目。鳴神上人ならぬ鳴神尼に孝太郎、雲の絶間姫ならぬ雲野絶間之助に鴈治郎。男の色香に迷わせて鳴神尼から神通力を奪う、水もしたたる二枚目、雲野絶間之助が鴈治郎。鴈治郎が雲野絶間之助ですよ。どうだろうと思ったが、意外にも(失礼)鴈治郎がきっちり美男だったし、孝太郎も良かった。妖怪と化した鳴神尼を討ち取る佐久間玄蕃盛政も鴈治郎。鴈治郎の顔の大きさは無敵。
幸四郎の「傀儡師」。洒落た舞踊だが、味わうのが難しい演目である。が、たまたまこの前の年末の邦楽の会で、解説つきで「傀儡師」を観ていたため、今回なるほどと思いながら楽しめた。私は踊りはわからないのだが、幸四郎が上手にすらすら踊っていた気がする。
「傾城反魂香」序幕は、狩野四郎二郎に幸四郎、銀杏の前に米吉、狩野雅楽之助に鴈治郎など。鴈治郎がまた活躍。二幕目「土佐将監閑居の場」はいわゆる吃又、吃りの又平に白鸚、おとくに猿之助、土佐将監光信に彌十郎など。
観劇の気分を盛り上げるために、『続 歌舞伎への招待』(戸板康二/岩波現代文庫)を持参して合間に読んでいたのだが、たまたま「吃り」の演技を名優の芸談で論じているところに出会い、期待が不自然に高まってしまった。そのせいで白鸚にもうひとつ満足できなかったかも。