百歳にもなると、人間は愛や友情に頼らずにすむ。さまざまな災厄や不本意な死に怯えることもない。芸術や、哲学や、数学のいずれかに精進したり、独りでチェスの勝負を楽しんだりする。その気になったら自殺する。人間が己れの生のあるじならば、死についても同じである。
「疲れた男のユートピア」(J.L.ボルヘス著/鼓直訳)より

2018年1月10日水曜日

初芝居は「黒蜥蜴」

日生劇場に「黒蜥蜴」を観に行く。少し早く到着したので、日比谷公園へ。おお、これが瑞兆を報せて歌を歌うと噂の、鶴の噴水かァ。そしてこの地下には神田上水の大伏樋のラビリンスが広がっているのだなあなどと思いつつ、公園を散策してから、劇場へ。

「黒蜥蜴」はもちろん江戸川乱歩原作、三島由紀夫脚本。今回は中谷美紀/井上芳雄主演、D.ルヴォー演出。やはり三島由紀夫の台詞はいい。

中谷美紀さんは綺麗で妖しげな雰囲気が黒蜥蜴らしくて良いし、熱演だったが、演劇の舞台では魅力全開とまでは行かなかったか。黒蜥蜴は誰が演じても、若い頃の美輪明宏さんと比較されてしまうので難しそう(とは言え、私の黒蜥蜴イメージは昔 TV ドラマで演じていた島田陽子さんだが)。

 演出や舞台装置は効率良くシャープで現代的、一言で言えば "neat" 。私は普段、歌舞伎ばかり観ているので、もっと大仰でもいいのに、とは思った。例えば、「このやさしい、二の腕の、黒蜥蜴を!」あたりで、チョーンと柝の音が入って明転してもいいくらい(笑)。

でも、長い時間を全く飽きずに観られたし、良い舞台だったと思う。幕後は観客みな standing ovation。今日はオマケに終演後、D.ルヴォーの「マスタークラス」と称するインタビュー企画もあってお得だった。