百歳にもなると、人間は愛や友情に頼らずにすむ。さまざまな災厄や不本意な死に怯えることもない。芸術や、哲学や、数学のいずれかに精進したり、独りでチェスの勝負を楽しんだりする。その気になったら自殺する。人間が己れの生のあるじならば、死についても同じである。
「疲れた男のユートピア」(J.L.ボルヘス著/鼓直訳)より

2019年12月13日金曜日

「十二月大歌舞伎」昼の部、B プロ

 天気が良く、気温も高かった昨日、思い立って歌舞伎座へ。「十二月大歌舞伎」昼の部。「たぬき」、「保名」、「壇浦兜軍記(阿古屋)」という B プロ。ちなみに A プロでは「保名」の代わりに「村松風二人汐汲」。また阿古屋を演じるのが A プロは玉三郎、B プロは児太郎と梅枝のダブルキャスト。

「たぬき」は金兵衛に中車、お染に児太郎、蝶作に彦三郎など。誰でも自分の葬式はどんなものだろう、自分の死後、親しい人々はどんな風だろうと思うものだ。大仏次郎原作のこの舞台はおかしいような哀しいような、いい塩梅でこの夢を描く。特に「たぬき」という題名がいい。脇役だが、芸者お駒の笑也がそれらしくて良かった。

「保名」は玉三郎。昼食後、一杯飲みながらうとうとと夢現に玉三郎の舞踊を観る。大変結構な贅沢である。

この日の阿古屋は児太郎。琴、三味線、胡弓のどれも立派に弾いていた。この演目はどうも役者の演奏につい興味の中心が行ってしまって、芝居の内容に気持ちが向かない。女方ですもの素養として弾けて当然です、くらいの格が備わらないといけないのかも。