百歳にもなると、人間は愛や友情に頼らずにすむ。さまざまな災厄や不本意な死に怯えることもない。芸術や、哲学や、数学のいずれかに精進したり、独りでチェスの勝負を楽しんだりする。その気になったら自殺する。人間が己れの生のあるじならば、死についても同じである。
「疲れた男のユートピア」(J.L.ボルヘス著/鼓直訳)より

2017年10月5日木曜日

芸術祭十月大歌舞伎「マハーバーラタ戦記」

まさか「マハーバーラタ」を歌舞伎座で観る日がやって来ようとは。

百貨店の地下のサンドウィッチリーで幕間の昼食を調達して、歌舞伎座へ。今月の昼の部は「極付印度伝マハーバーラタ戦記」。なんとインドの古典、叙事詩「マハーバーラタ」の歌舞伎化である。日本を舞台に翻訳してあるのかな、と思ったら、案外そのまま「マハーバーラタ」。筋も意外に忠実で、「バガヴァッド・ギーター」に対応すると思しき場面もあった。

しかし「新歌舞伎」ではあり、(和風の)腰元が花を撒く後ろを(和風の)お姫様を乗せた象がついていく、みたいな歌舞伎&インド折衷のすごい世界が展開される。音楽も舞台装置も効果も照明も相当インド風(?)にがんばったので、役者さん以外も大変だったろうな……と、裏方の苦労が思いやられた。ついでに言えば、大向こうさんたちがいつものように「音羽屋!」などと声をかけるのも変な感じで、声をかける方もかけられる方も、戸惑っていたのではないか。

でも、お芝居としては非常に楽しめて、3 幕で 4 時間近くがあっという間。これは歌舞伎ではない別の演劇だと思えば、かなりおすすめである。人間と戦争を巡る最も古く、最も深い、大叙事詩を題材にした舞台を観るのにもよろしいご時世かと。