百歳にもなると、人間は愛や友情に頼らずにすむ。さまざまな災厄や不本意な死に怯えることもない。芸術や、哲学や、数学のいずれかに精進したり、独りでチェスの勝負を楽しんだりする。その気になったら自殺する。人間が己れの生のあるじならば、死についても同じである。
「疲れた男のユートピア」(J.L.ボルヘス著/鼓直訳)より

2017年11月30日木曜日

ヒュームの死

氏は答えて、氏自身もこの満足を非常に強く感じているので、その数日前、ルキアノスの「死者達の対話」を読んでいるとき、カロンに向ってその渡し舟にやすやすと乗りこまないために持ち出されているあらゆる弁解のなかに、一つとして自分にとって適当なものは見出しえなかったといいました。氏は仕上げるべき家をもたず、支度をしてやる娘をもたず、復讐を願う敵ももっていませんでした。……
アダム・スミス書簡(ウィリアム・ストローン宛)より、D.ヒュームの最期の描写。「奇蹟論・迷信論・自殺論」(D.ヒューム著/福鎌忠恕・斎藤繁雄訳/法政大学出版局)に所収。