百歳にもなると、人間は愛や友情に頼らずにすむ。さまざまな災厄や不本意な死に怯えることもない。芸術や、哲学や、数学のいずれかに精進したり、独りでチェスの勝負を楽しんだりする。その気になったら自殺する。人間が己れの生のあるじならば、死についても同じである。
「疲れた男のユートピア」(J.L.ボルヘス著/鼓直訳)より

2018年3月15日木曜日

「三月大歌舞伎」

冷酒一合ほどを水筒に詰め、三越で蛸とセロリのマリネとばらちらしを調達し、歌舞伎座へ。夜の部を観劇。

「於染久松色読販」はお六と喜兵衛に玉三郎と仁左衛門。こういうはすっぱな感じも意外に似合うお二人である。「神田祭」も玉三郎と仁左衛門。二人とも今に残る真の花であるから、今見ておくべきものかと。「滝の白糸」は滝の白糸に壱太郎、村越欣弥に松也。松也が力演。こういう直情的で単純な役柄が似合う。

「滝の白糸」は玉三郎のお気に入りらしく、今まで 5 度自分で演じ、今回は演出。普通は新派なので、歌舞伎座では 1981 年以来の珍しい演目だそうだ。鏡花原作と言っても、確か師匠の尾崎紅葉との合作の初期作品だったはずで、そのせいか、講談調というか、メロドラマ的というか、そのあたりが芝居向きである。