百歳にもなると、人間は愛や友情に頼らずにすむ。さまざまな災厄や不本意な死に怯えることもない。芸術や、哲学や、数学のいずれかに精進したり、独りでチェスの勝負を楽しんだりする。その気になったら自殺する。人間が己れの生のあるじならば、死についても同じである。
「疲れた男のユートピア」(J.L.ボルヘス著/鼓直訳)より

2018年7月28日土曜日

隠棲

一定の年齢に達したら、人間は名前を変えて、どこか目立たぬ一隅に隠れ住むべきである。誰とも面識がなく、友人や敵に再会する危険もまたなく、仕事に飽き疲れた悪人のようにして、安らかな生涯を終えられる場所に。
「生誕の災厄」(E.M.シオラン著/出口裕弘訳/紀伊國屋書店)より