百歳にもなると、人間は愛や友情に頼らずにすむ。さまざまな災厄や不本意な死に怯えることもない。芸術や、哲学や、数学のいずれかに精進したり、独りでチェスの勝負を楽しんだりする。その気になったら自殺する。人間が己れの生のあるじならば、死についても同じである。
「疲れた男のユートピア」(J.L.ボルヘス著/鼓直訳)より

2018年6月23日土曜日

田舎の流儀

田舎では昔、枕を使って老人を窒息させたものだという。賢明な処置であり、各家庭がそうした流儀に磨きをかけていた。老人たちを寄せ集め、柵のなかに閉じこめ、退屈を救ってやったあげく痴呆状態に追いこむのよりは、はるかに人間らしい手立てではないか。
「生誕の災厄」(E.M.シオラン著/出口裕弘訳/紀伊國屋書店)より