百歳にもなると、人間は愛や友情に頼らずにすむ。さまざまな災厄や不本意な死に怯えることもない。芸術や、哲学や、数学のいずれかに精進したり、独りでチェスの勝負を楽しんだりする。その気になったら自殺する。人間が己れの生のあるじならば、死についても同じである。
「疲れた男のユートピア」(J.L.ボルヘス著/鼓直訳)より

2018年6月14日木曜日

「六月大歌舞伎」夜の部

三越の地下でだし巻き卵と弁当をあつらえ、日本酒一合を買い求めてから、歌舞伎座へ。「六月大歌舞伎」の夜の部を觀劇。「夏祭浪花鑑」と「巷談宵宮雨」という夏らしい演目。

「夏祭浪花鑑」は団七に吉右衛門、お辰に雀右衛門など。美貌のお辰が鉄弓で自分の顔を焼く心意気が見せ場の一つだが、あっさり気味。この演目の目玉である祭の賑いと交錯する凄惨な殺しの場面は、流石に吉右衛門の貫禄だった。

「巷談宵宮雨」は龍達に芝翫、虎鰒の太十に松緑、おいちに雀右衛門など。私には「夏祭」よりこちらの方が面白かった。「巷談宵宮雨」は昭和初期、六代目菊五郎のために宇野信夫が書いて大当たりしたことで有名な怪談話。二十四年ぶりの上演とのこと。怪談は笑いのスパイスで怖さが引き立つものだが、今回の演出はやや笑いが前面に出ていたかも知れない。芝翫と松緑のやりとりの可笑しさが抜群で、芝翫はこういう方面の才能があるなあと思った。やはり歌舞伎座で観る怪談は良いね。