百歳にもなると、人間は愛や友情に頼らずにすむ。さまざまな災厄や不本意な死に怯えることもない。芸術や、哲学や、数学のいずれかに精進したり、独りでチェスの勝負を楽しんだりする。その気になったら自殺する。人間が己れの生のあるじならば、死についても同じである。
「疲れた男のユートピア」(J.L.ボルヘス著/鼓直訳)より

2019年1月12日土曜日

Almost Over

老人は、眼鏡を注意深く片方ずつ耳にかけた。「わしは、日々生き残るってことについては十分な知識を持っとる。世間でわしくらいその道の専門家はいないよ。それでどのくらい助かったことか。わしの人生、二語でいえるのだが、きみ、知りたいと思わんかい?」老人は胸のつぶれる思いで、もう一度棺を見下ろした。「二語でだぞ!」というなりダイアモンドはもう絶叫していた。「もう少しだ(Almost)! 終った(Over)! この二語のおかげで、わしは信じてもおらん神に日々感謝しとるのよ」
『チャーリー・ヘラーの復讐』(R.リテル/北村太郎訳/新潮文庫)より