百歳にもなると、人間は愛や友情に頼らずにすむ。さまざまな災厄や不本意な死に怯えることもない。芸術や、哲学や、数学のいずれかに精進したり、独りでチェスの勝負を楽しんだりする。その気になったら自殺する。人間が己れの生のあるじならば、死についても同じである。
「疲れた男のユートピア」(J.L.ボルヘス著/鼓直訳)より

2019年1月10日木曜日

ジェームズ・ボンドと美食

「許してくれなきゃ困るが、わたしは飲んだり食ったりすることに、ばからしいくらい喜びを感じるんだ」ボンドはいった。「ひとつには、ひとり者だからなんだろうが、それよりも何ごとにもこまかいことにまでうんと苦労するという癖がおもな理由らしい。……」
『カジノ・ロワイヤル』(イアン・フレミング/井上一夫訳/創元推理文庫)