百歳にもなると、人間は愛や友情に頼らずにすむ。さまざまな災厄や不本意な死に怯えることもない。芸術や、哲学や、数学のいずれかに精進したり、独りでチェスの勝負を楽しんだりする。その気になったら自殺する。人間が己れの生のあるじならば、死についても同じである。
「疲れた男のユートピア」(J.L.ボルヘス著/鼓直訳)より

2017年5月25日木曜日

落語とブラッドベリ

月末締切の原稿もほぼ上げたし、ヴェランダのタイルも復旧させたしと、今週は思いがけなく作業が捗ったので、午後はまた落語を聴きに行こう。と、おむすび(沢庵と海苔)と茹で卵とお茶と「火星年代記」(ブラッドベリ著/小笠原豊樹訳/ハヤカワ文庫)を持って家を出る。鈴本演芸場の五月下席、昼の部。

主任の柳家さん喬の「八五郎出世」が感動的だった。泣かせる。良く知らないが、きっと名人に違いない。トリ以外では柳亭小燕枝の「小言幸兵衛」が良かった。歌舞伎の道行の台詞の真似が本当の歌舞伎役者みたい。いや、下手な役者よりうまいくらい。

帰宅して湯船で「火星年代記」の続き。これってまるで落語だな、と思った一日。第二探検隊の顛末なんて、落語以外の何ものでもない。そう思うと実は、ブラッドベリはどの作品も落語なのではないか……と帰宅してからずっと考えている。