百歳にもなると、人間は愛や友情に頼らずにすむ。さまざまな災厄や不本意な死に怯えることもない。芸術や、哲学や、数学のいずれかに精進したり、独りでチェスの勝負を楽しんだりする。その気になったら自殺する。人間が己れの生のあるじならば、死についても同じである。
「疲れた男のユートピア」(J.L.ボルヘス著/鼓直訳)より

2017年5月3日水曜日

死と自由

死についてあらかじめ考えることは、自由について考えることにほかならない。死に方を学んだ人間は、奴隷の心を忘れることのできた人間なのだ。いのちを失うことが不幸ではないのだと、しっかり理解した者にとっては、生きることに、なんの不幸もない。死を学ぶことで、われわれは、あらゆる隷属や束縛から解放されるのである。
「エセー」(モンテーニュ著/宮下志郎訳/白水社)、「哲学することとは、死に方を学ぶこと」より