百歳にもなると、人間は愛や友情に頼らずにすむ。さまざまな災厄や不本意な死に怯えることもない。芸術や、哲学や、数学のいずれかに精進したり、独りでチェスの勝負を楽しんだりする。その気になったら自殺する。人間が己れの生のあるじならば、死についても同じである。
「疲れた男のユートピア」(J.L.ボルヘス著/鼓直訳)より

2017年7月23日日曜日

「ブルー・ハンマー」

居間のエアコンが故障し、代替機がいつ設置できるかも目下不明で、真夏を満喫中。寝室と書庫にもエアコンがあるので、気をつけていれば熱中症の危険はないと思うが。

この土日は、定例のゼミに出席したり、知り合いの方に御自宅からの花火見物に誘っていただいて一家団欒のお邪魔をした他は、居間で冷たい発泡水を飲みながら読書など。「ブルー・ハンマー」(R.マクドナルド著/高橋豊訳/ハヤカワ文庫)を一息に読み通した。

「ブルー・ハンマー」は「縞模様の霊柩車」を古本屋で買ったら、無料でオマケにつけてくれたもの。おかげで期待せずに読んだせいか、(少なくとも読み終えた直後は)すごい傑作だと興奮した。ロス・マク流としか言いようのない冷徹な陰鬱さと、登場人物は少ないのに複雑でトリッキィなプロットのブレンドの塩梅が絶妙で、しかもどの描写もあっさりしているようで深い。ある意味では脇役だが、アーチャーが親しくなる女性記者の描写など凄みがあって、なかなかこうは書けないと思った。

ロス・マクと言えば、「さむけ」と「ウィチャリー家の女」の二作だけ読めば十分、とくらいに思っていたのだが、最後の作品でこの水準に逹しているところからして、読めるだけ読むべきかも知れない。